連載『シャオミのすべて』著者インタビュー①

巨大IoTメーカーに学ぶユニコーン企業の作り方

第1回「エコシステム」はこうして生まれた!

『シャオミのすべて』と著者の洪華(ホン・ホワ)氏

「シャオミ」という家電メーカーを知っているだろうか?日本には未上陸だが、スマホでは現在世界4位のシェアを誇っている中国企業である。しかし、スマホだけのメーカーではない。ベンチャー起業家をパートナー企業に育て様々なシャオミブランド家電を生み出す「ミー・エコシステム」で今やIoT企業として世界をリードしている。この底知れないパワーの秘密を解き明かした書籍『シャオミのすべて』(CCCメディアハウス刊)の著者・洪華(ホン・ホワ)氏の来日に合わせて、書籍に書かれなかったエピソードや日本への想いについて話を聞いた。

【Profile】洪華(ホン・ホア)——中国・清華大学博士。長く起業研究に力を注いでいる。シャオミ谷倉学院学院長、北京青禾谷倉科技有限公司CEO。元北京科技大学工業設計学科副主任。

出資企業4社がユニコーン

——シャオミは自社のパートナープラットホーム「ミー・エコシステム」を通じて、100社以上の企業をインキュベート(孵化)させたそうですね。

洪:正確にいうと120社を育てました。その中から4社がユニコーンとなっています。企業評価額は10億ドル超です。今ではそのうち2社がアメリカで上場しました。ナスダックとニューヨーク証券取引所です。ほかにも、中国の株式市場で上場を予定している企業がいくつもあります。

——そんな驚異的なベンチャー育成力を持つ「ミー・エコシステム」はどのように構築されたのでしょうか?

洪:それはシャオミ(小米科技)の初期の状況から説明する必要があります。2010年に創業し、翌年スマホの初号機「Mi-one」を発表しましたが、幸いちょうどスマホの買い替えブームがありました。iPhoneはもちろん人気ですが高価。でもシャオミは性能も劣らず、平均的な収入の方や学生にも買える価格ということでとても評判となりました。

こんな時代背景にも恵まれ、まずはスマホメーカーとしての地位を確立しましたが、創業者の雷軍(レイ・ジュン)はすでに「この先10年はIoTの時代だ」というビジョンを描いていました。消費者はより良い製品を求め、販売チャネルも大きく変わるはずだと。しかし、今も続いているようにスマホ業界の競争は非常に激しいものです。大きなポテンシャルのあるIoT事業だとはいえ、スマホ以外のことに人的資源を注ぐ余裕はありません。

そこで思いついたのが、シャオミの資源や経験をより多くの起業家に公開し、彼らに様々なIoT家電を作ってもらうアイデアです。中国のスマホ市場でトップシェアを獲得した2013年、「ミー・エコシステム」が生まれました。

シャオミスマートフォン出荷量
シャオミ全社販売額

私はシャオミ谷倉創業学院という、シャオミの製品開発や経営理論といったノウハウを起業家に教える機関の代表なのですが、2016年に学院を設立した時にはすでに40社以上のエコシステム企業がありました。

——最近日本でもIoTという言葉を耳にすることが増えましたが、2013年時点でこの予測をしていたとは驚きです。

洪:これは雷軍個人の経験に基づく部分が大きいと思います。彼はシャオミの前に「金山軟件(キングソフト)」という会社の社長として上場に成功した後、未来について考える時間を作りました。国内外の起業家と交流したり、エンジェル投資家をしたり、アメリカのコストコなどの先進的な業態や日本の無印良品も視察したそうです。そのときインプットされた見識が、IoT時代の到来を予測する材料となったのでしょう。

——「エコシステム」という言葉は、日本の新聞でも見られるほど普及しましたが、言葉の由来は?

洪:「エコシステム」は特別な意味のない名称です。2013年の始動に合わせてとりあえず名前が必要だったので、 あまり大げさなものにならないように…という感じで決まりました。

また「システム」といっても、本質はシステムではありません。システムとはもっと複雑なもの。現段階では「プラットホーム」であり、「システム」への進化の途中ですね。

「プラットホーム」とは、たくさんの人が集まり、多くの商品を求めている場所にすぎません。一方、「システム」にはネットワークがあります。その中では企業間に業務ネットワークがあり、ダイバーシティもあります。今のところ私たちのダイバーシティは不十分で、ネットワークもはっきりとしていない。しかし、今後その点も改善され、真のシステムへと進化するはずです。

出資はしても口は出さない

——「ミー・エコシステム」は斬新な発想だったと思いますが、最初からうまくいったのでしょうか?

洪:最初は社内ベンチャーができないかと試行錯誤もしました。モバイルバッテリーを製品とした起業チームを作りましたが、うまくいきませんでした。いくつかのチームで失敗した後、たまたま社外のチームにモバイルバッテリー事業を任せてみたら、これが見事に成功。そこからエコシステム構想が一気に実現しました。

——「ミー・エコシステム」の企業には出資のみで買収は行わない点も独特ですね。

洪:最初の企業がそれでうまくいったからです。社内の人間で失敗した原因を探ったところ、それはリーダーのモチベーションにあると判断しました。社内チームのリーダーは会社員であって起業家ではない。起業成功のためには起業家精神が必須です。しかも、筆頭株主でなければこの精神は持ち得ません。「自分の会社だから、自分が先頭に立って努力する」。この意識がポイントです。誰でも一番になりたい、これは人間の本能的欲求。大きな組織の歯車ではこの欲求は満たせません。本当は誰でも「価値ある物」を創造して自分を認めてもらいたいはずです。だから、出資にとどめて自主性を持たせたのです。資金やものづくりのノウハウ、販売ルートは提供しますが、経営には口出しはしません。

スマホの他にも様々な家電製品がディスプレイされているシャオミの「ミーストア」。(Shutterstock)

——企業への投資を決める際の判断基準はなんですか?

洪:主な選定基準は4つあります。一つは、一般市民の生活で広く使われている製品を作っていることです。生活に不可欠であればあるほど、大量に生産でき、会社の売り上げも見込めます。

二つ目には、ユーザーが不便を感じている分野です。エコシステム内には「漢図科技」という企業がありますが、家庭用プリンターを便利にしたいという思いから立ち上げました。

例えば、中国の学校の宿題は、先生がSNSで生徒の親のスマホに送ります。これを親はスマホからPCにダウンロードして、PCとプリンターをつないでやっと印刷できます。プリンターとスマホが直接つながればこんな面倒ありませんよね。ここからヒントを得て、スマホで撮った写真を直接印刷できるプリンターを作り、ヒットしました。

三つ目には、組織の持つ能力を見ています。例えば、もともとiPadやPCなど複雑な電子機器を作っている会社に、モバイルバッテリーを作ってもらいます。能力に余裕がないと高品質な製品はできないのです。

四つ目は、価値観の一致です。我々はこれを最も重視しています。人に喜ばれる製品をリーズナブルな価格で提供する。価値観の合わない企業はパートナーにしません。

ビジネスの激しい風雨から守る「温室」

——こうして出資を受けたベンチャー企業が次々と成功している訳ですね。

いいえ、資金面だけでなく、ある程度の力をつけるまで守ってあげることも必要です。

起業家は植物の種のようなもので、芽を出し、花を咲かせ、実りへとプロセスを経験していくものです。芽を出した途端、強風や豪雨がやってきて一瞬で全てダメになることもあります。それがビジネスの残酷さで、生きるか死ぬかの世界です。

そこで「ミー・エコシステム」は「温室」となります。資金がなければ提供します。ユーザーがいなければ、シャオミのファンを分け与えます。販売ルートがなければ、シャオミの店舗を利用できます。サプライチェーンがなければ、私たちの取引先を招いて、一緒に交渉することも可能です。

巨大な「温室」で育て、ある程度大きく成長したら、外の世界でさらに発展させます。そうすると多少の風雨があっても耐えられます。一般的には5億、10億元の売り上げがあれば中規模の企業として組織が整備され、ルートやプロセスが安定しているとみなし、自分たちの力で開拓させます。この仕組みがベンチャー育成で高い成功率につながっている最大の理由です。

シャオミのエコシステムを構成する企業(一部)

——エンジェル投資を受けた後に失敗する企業が多いようですが。

余計なプレッシャーによるものだと思います。消費者のことも投資家のことも気にしていると身動きがとれなくなります。投資家は自分の成功体験に基づいて指導もしてきますが、起業という不確定な環境では、アドバイスも柔軟であるべきです。

そして、じっくりと待つ姿勢も大切です。人材と製品の成長は安定したものではありません。2年間の開発期間を経て、3年目に爆発的に成長するかもしれません。しかし、この2年の時間を待てなければ台無しです。

だから、回収目的の投資として見るか、インベキュベーション(孵化)として見るかで結果は天と地ほど違ってきます。起業家とは共に戦い勝つという意識が不可欠なのです。

起業家を金儲けのマシンだと思ったらうまくいくものもいきません。またKPIなどの数字を提示するのも完成された大企業のやり方で、ベンチャーには向きません。

育てたいなら余計なプレッシャーを与えないという当然のことをやるだけで、何も難しいことはないはず。でもこの常識が今の時代最も欠けていると思います。

ちなみに私たちはどの出資先に対しても「5億円の売り上げを実現しなさい」みたいなノルマは課しません。売り上げとは予測不可能なのに、数字だけを突きつけても意味がないからです。方向性に問題がないと判断したら、あとは能力を信じて自由にやりなさいと伝えます。起業とは不確定性のあること。投資の論理を、特に技術領域の起業に当てはめることは問題があると思います。

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次回 第2回「製品に求めるべき価値、IoT製品の魅力とは」

インタビュー:郭ウテイ(中信出版日本) 構成:高橋峰之(中信出版日本)

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