連載『シャオミのすべて』著者インタビュー②

巨大IOTメーカーに学ぶユニコーン企業の作り方

第2回 利益ではなく価値を追求せよ。

『シャオミのすべて』と著者の洪華(ホン・ホワ)氏

お客様は「友達」です

——最初はネットのみでの販売という点も話題になりました。

洪:最初のスマホ(Mi-one)を発売するときに、品質には自信がありましたし、中間コスト、店舗や輸送コスト削減することで価格も抑えたいという考えで、卸業者を通さず自社サイトで直接販売する方法を始めました。業界参入した2011年当時すでにネットショッピングは流行していましたが、2000元(約32,000円)以上の購入をする人はほとんどおらず、携帯電話のネット販売は業界初でした。でも高品質・低価格という競争力があったので、ネットで販売することにそれほど不安はありませんでした。実際、購入者から高評価をもらい、口コミで販売が伸びました。

——シャオミと言えば、「米粉(ミーフェン)」と呼ばれる大勢のファンの存在も強みです。

洪:一般的には「お客様は神様」だと言われますが、シャオミは無神論者が多いので、「友達」だと考えています。友達から「無料でスマホが欲しい」と言われてもあげられませんよね。だって売らないと飢え死にしちゃうから(笑)。友達なら友達を餓死させることはしないはずだし、友達なら安く提供することはできます。これが「ファンビジネス」です。

最初に友達になってもらったのは、いわゆるマニアと言われる方たちです。彼らは新しいテクノロジーに強い興味を持っています。まずは100人くらいのマニアに満足してもらえる商品作りを心がけました。その後は狙い通り、彼らはファンの先駆者、リーダーとして、シャオミスマホの魅力を他のマニアや理系の男性、流行に敏感な若者、そして全国の人々へと拡散してくれました。

価値の公式

——EC戦略の成功のあと、商品に触れて体験できるリアル店舗(ミー・ストア)の展開も始めましたね。

洪:販売方法の見た目が変わっても、本質的な変化だとは思いません。本来、小売とは効率を高めながら顧客体験を追求すること。そういう意味で、価格はそれほど重要ではなく、「価値」こそ重要なのです。価値を創造できないなら、どんな形の小売でも続きません。シャオミが成功し続けているのは、売り方ではなく「良い製品を作っているから」ということに尽きると思います。

シャオミにはこんなスローガンがあります――「人に感動を、価格は誠実に」。私自身は雷軍CEOのこの言葉を、人を感動させることで価値を大きくし、誠実な価格で対価を小さくしようということだと理解しています。

これは商売の意義を読み解く「価値の公式」だと言えます。価値は、分子を客の利益、分母を客の対価として表すことができます。対価を小さくすれば、価値の数値は大きくなります。また対価というのは、価格だけでなく、近くの店で手に入る、ネットで注文したらすぐ届くという「購入しやすさ」や、説明書を読まなくても操作できる「使いやすさ」も含まれます。購入や理解に多くの時間コストを払わなくていいわけですから。

これら客が払うコスト全体を小さくする一方で、客が得られる利益も大きくする。この「利益」とは不便の解消や楽しい記憶と体験を意味します。この「分子」が大きくなり、「分母」が小さくなれば、ビジネスは順調だと言えるでしょう。

ビジネスとは「価値の公式」に基づいて「価値」を大きくするという点だけが出来ていればいいと思うのですが、多くの人は「たくさん稼ぎたい」「売り上げを増やしたい」とお金に目がくらんで、人間心理への洞察力を失っている。自分が消費者だったら「良い物を安く欲しい」じゃないですか?高品質で値段も高ければ、それはただの贅沢品。私たち庶民には買えません。安いけど品質もイマイチだったらそもそも欲しいと思いません。商品価値と得られる利益は払う対価にふさわしいか?客はこの二つの要素で購入を判断していて、価値や対価を単独では考慮していません。これは小売における本質的な話です。

——「価値ある商品」を徹底して作り続けているから、ここまで売り上げが伸びているのですね。

洪:それだけではありません。「人に感動を、価格は誠実に」を追求すると同時に商品ラインナップの内容も重要です。

スマホは大体1〜2年で買い換えられます。炊飯器なら数年に1度、セグウェイは3〜4年か、一生買い換えないかも。この品揃えの店ではお客さんの来店頻度があまり多くありません。だから、私たちはもっと短期間で買い換える商品もラインナップに入れています。例えば、歯ブラシ。私が立ち上げたプロジェクトですが、歯ブラシや歯磨き粉は誰でも永遠に買い換え続けなければならないものですよね。定期的に歯ブラシを買いに来るうちにセグウェイを体験したくなるかもしれない。スマホを買いに来たらついでにそれに付けるアクセサリーも買ってしまう。使ってみて良かった商品を友達に話したら、その友達もどんなものかと見に来る。これらすべて容易に想像でするビジネスの常識ですよね。ビジネスには難解なことなどありません。常識を徹底すれば、想像以上に大きなことができるのです。

IoT家電の魅力

——シャオミは商品が多彩なだけでなく、製品同士がリンクしているので、一つ買うと他の物も買いたくなります。

洪:シャオミ製品がなぜ売れるか、先に言った「高品質・低価格」「商品ラインナップの工夫」に続く3つ目の答えは、「IoT家電」です。

人々がIoT家電にハマってしまうポイントは、アプリに集約された操作系統です。例えば、シャオミの空気清浄機はフィルターの交換時期が来たら、機械が新しいフィルターを勧めてくる。しかも清浄機を操作していたスマホアプリから注文できる。また清浄機が空気の乾燥を感知したら、今度は加湿器を勧めてくる。買った加湿器はタンク内の水質が悪いと感知したら浄水器を勧めてくる。浄水器のフィルターの交換時期が来たら…、という具合にユーザーよりも先に機械がニーズに気づくという特徴があります。これは人類の歴史で初めてのことです(笑)。それにIoT家電はユーザーデータを正確に記憶していくので、個人の細かい事情にも対応することができるのですよ。

スマホをはじめとして、様々な生活家電を取り揃えているシャオミのIoT製品(Shutterstock)

さらにこんなことも可能です。あなたが家のドアを開けると自動で照明がつく、スマートウォッチを着けて横になると睡眠に入るのを感知して照明が消える。この生活にもたらす大きな利便性は体験すると誰でも魅了されます。そして、一つの家電が他の家電と繋がり、また繋がり…この自分のスマートライフ空間を作り上げていく達成感も買い続けてしまう理由だと思います。

——IoT家電業界をリードしていますが、この2年ほど中国で広まっているニューリテール(新小売※)においても先駆者だとも言われています。この点に自負はありませんか?

※ニューリテール(新小売)とは:アリババ創業者のジャック・マーとシャオミ創業者の雷軍が提唱、オンライン(ネット)とオフライン(リアル店舗)のそれぞれの強みを生かし、シナジーを目指すO2O(Online to Offline)ビジネスモデル。シャオミの場合、ネットもリアル店舗も同価格で販売。店舗での商品体験を通じ成約率を高め、リピーターをECサイトに誘導している。これにより坪あたりの利益が同業他店の20倍になった。

洪:ニューリテールでも、オールドリテールでもお客さんにより大きな価値を提供できるかが本質的なテーマだと思います。私たちは常に物事をシンプルに理解するようにしていますが、小売とは「誰に売る」「どう売る」「何を売る」ということにすぎないと考えています。

ニューリテールは「どう売るか」の議論だと思いますが、「何を売るか」は特に議論がないようです。私はそのことに違和感を感じています。なぜなら「集客力」を上げるための作戦を練っても、お客さんには何も関係ありませんよね。店側が稼ぎたいと思っているだけでしょう。「何を売るか」を解決しさえすれば、使って良かったものはリピートしてくれる、友達にも勧めてくれる、自然と集客力も大きくなります。

集客ために使う広告も、シャオミの初期には出しませんでした。なぜなら広告は一度の情報拡散しかならないから。口コミなら何重にも連鎖して広がっていきます。すべては「良い物を作る」という常識に従って行動するだけなのです。

それに、リテール(小売)とは大昔から、客のニーズと市場の状況によってカタチが変化し続けているものです。元々リテールという言葉にはその時々の状況に合わせて変わるという意味が含まれていると思います。だからあえて「ニュー・リテール(新小売)」と言う必要もないかなというのが個人的な意見です。


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次回 第3回 シャオミから見た日本製品

インタビュー:郭ウテイ(中信出版日本) 構成:高橋峰之(中信出版日本)

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