中国ビジネスにチャレンジする人のための「故事成語」

2020年2月、新型コロナウイルスの感染が拡大する中国へ日本からの支援物資が届けられました。このとき箱に記されていた「山川異域 風月同天」の8文字に中国の人々は大いに感銘を受け、国営メディア人民網も「共感を呼んだ」とし「日中の歴史文化の絆を表している」と報じました。

「山川異域 風月同天」は天武天皇の孫・長屋王が唐の僧侶・鑑真和上に送った袈裟のふちに縫いとられた詩句で、「住む場所は違っていても、同じ空の下で(私たちは)つながっています」という意味。鑑真和上はこれを見て日本への過酷な船旅を決意したとか。

中国の人々は先人たちの文献を非常に大切に思っています。そのため、現代でも、古典から引用してその時々の状況を表すことができるとグッと距離が近づきそうです。今回は、中国の故事成語からコミュニケーションのヒントを考えてみたいと思います。

「兢兢业业」(ジンジン イエイエ)

 jīng jīng yè yè

「慎重でまじめだ」という意味の成語ですが、実は儒教の基本的な経典である四書五経の一つ、『書経』の「皋陶謨」(こうようぼ)という篇に由来する、たいへん古い言葉です。

「皋陶謨」は、古代中国の伝説的な三人の聖天子、尭(ぎょう)・舜(しゅん)・禹(う)のうち、舜に重用された皋陶という人物が、次の帝王になった禹に説いた「徳をもって国を治める」ことの大切さなどをまとめた書物です。

ここでの「兢兢业业」の意味は、「恐れ危ぶむ」。皋陶は、帝王には上に立って人を使うときに細心の注意が必要で、なまけてはならず、常に模範的に行動し、皆の仕事を見届け、適材適所であるかどうか確認しなければならないと言っています。

時代を問わず組織をまとめる人への心得と言えるかと思いますが、現在では書面で他人を褒める、激励するときに使われるのが一般的なようです。

例えば、中国で目立たないところで地道に努力するメンバーを褒め、組織の結束力を高めたいとき、この一言をメールに加えるとメンバーからの信頼度がグッとアップするでしょう。

「他对待工作兢兢业业,勤勤恳恳,事必躬亲」
(Tā duì gōngzuò jīngjīngyèyè qín qín kěn kěn shì bì gōng qīn)
=彼は仕事に対して実に真面目で、何事にも率先して取り組んでいます。

「虚怀若谷」(シューホァイ ルオグウ)

  xū huái ruò gŭ

「謙虚な心で人の意見を取り入れる」という意味ですが、「若谷(谷ノゴトシ)」という表現が面白いですね。中国は土地のスケールが大きいので、谷にも深くて広いイメージがあるようです。

「虚怀若谷」の出典である道教の重要書物『老子』の中では、「谷」は重要なキーワードの一つです。水は低いところへ流れるので、谷には自然と川の流れが集まってきます。『老子』には「旷兮其若谷」(=谷のように空しい)や「上德若谷」(=最上の徳は谷のようだ)という言葉があります。

なぜ谷のようにするのがよいのか。三国時代の魏(ぎ)の王弼(おうひつ)は、「自分の徳を示さず、こだわりがないからだ」と説明しています。自分の力量を見せつけようとせず、謙虚に人の話をきちんと聞くことが、人間関係の第一歩ですね。

「我想以虚怀若谷的态度来了解中国文化」
(Wŏ xiǎng yǐ xūhuái-ruògŭ de tàidù lái liǎojiĕ Zhōngguó wénhuà)
=私は谷のように謙虚な態度で中国の文化を理解したい)。

異国の言葉を学ぶとき、文化を知るとき、そしてビジネスシーンにおいても、まさに「虚怀若谷」の気持ちが必要ではないでしょうか。

おわりに

中国の成語には、短い言葉の中に深い哲学がこめられています。悠久の時の流れは中国を育んでなおもみなぎり、日常会話の中にもあふれ出しています。

中国語でコミュニケーションする際には、故事成語を一言だけでも入れてみると相手と心が通じ合うと思いますよ。
【ライター:倉井準】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です