2020/06/25 カルチャー

現役の京劇役者に聞いた!発祥からおすすめ演目まで、京劇のあれこれ

「京劇」という名称は聞いたことがあるものの、日本では見る機会が限られていて、実際に観劇した経験がある方はそう多くはないのでは?今回は東京を拠点とする京劇団「新潮劇院」の主宰であり、三代続く京劇一家ご出身の張春祥さんにオンラインでお話をうかがいました。京劇を楽しむための知識やおすすめの演目など、京劇の魅力に迫る必見の内容です!

“京”劇の発祥は北京ではない

――京劇の発祥について教えてください。

「京劇」の発祥は、実は安徽省といわれています。1790年、北京で行われた乾隆帝(※編集部注:清の第6代皇帝)の80歳の誕生日のお祝いに安徽省の劇団が招かれました。そこで安徽省の劇「徽劇」をしたら、これが人気を博し、彼らは北京に留まることになるんです。その後、湖北省からも「漢劇」の劇団が北京にやってきます。

このように安徽省を皮切りにいろんな劇が北京で混ざり合い、発展しました。その集大成としてまとまったものが今の京劇だといわれています。余談ですが、北京は昔「北平」という地名だったので、「京劇」ではなく「平劇」と呼ばれている時代もあったんですよ。

役柄はメイクだけでなく声からもわかる

――京劇のメイクはとても目に鮮やかですが、色は役によって決まっているんですか?


日本京劇振興協会より提供

メイクは役柄によって決まっている面もありますが、基本はキャラクターを生かすためのものです。例えば『三国志』の張飛。最初に演じた人は書物に書いてある特徴をもとにメイクをしていったんですが、後世になるにしたがって、さらに目をギョロっとさせたり、頬っぺたが出ているように描いたり、演者の感性をもとにして少しずつ変化しています。下記の特徴や役柄はあくまで一例。これに当てはまらないものも少なくありません。

赤・・・正直・忠義・強い 役柄:関羽

黒・・・乱暴・がんこ・強い 役柄:張飛

白・・・機知に富む・計算高い・ずるい 役柄:曹操

ゴールド・・・特別な強さ・一般人とは違う力  など

先ほど挙げた張飛のほかに、時代によって変わっていったメイクの代表例として孫悟空も挙げられます。昔の孫悟空はもっと本物の猿のようにメイクをしていたんですが、今はかわいらしいキャラクターのようなメイクが多いです。ほかにも、有名な役者が演じて、その劇が大ヒットすると、その役者のメイクが主流になっていきます。

――京劇の発声方法は独特ですが、何か決まりがあるんでしょうか。


「生」/ 日本京劇振興協会より提供

京劇には大きく分けて「生」「旦」「浄」「丑」の4つの役柄があり、男性役を表す「生」、その中でも二枚目の役では地声よりも高く発声します。


「旦」(写真:木村武司) / 日本京劇振興協会より提供

「旦」は女性役なのでさらに高い声になります。現在は女性が演じていますが、かつて男性が「旦」を演じていたころは裏声を使った甲高い発声をしていました。(現在男性が「旦」を演じるのは稀)また、おばあさんくらいの年齢の女性を演じる際は低い声になります。京劇を見に行く際にはこうした発声の高さに注目して観るとよりはっきりと役どころがつかめると思います。


左:「浄」(写真:木村武司)、右:「丑」 / 日本京劇振興協会より提供

京劇では歌を歌うことがあって、セリフと歌は6:4くらいの割合です。海外で公演をすると、セリフですら「歌みたい」と言われることがあります。中国語の発音には高さがありますから、そう聞こえるようです。

お客さんがハッとするような動きを意識

――京劇の舞台の特徴を教えてください。

日本の歌舞伎に比べて、京劇の舞台はとても質素です。歌舞伎のように花道や桜吹雪などの舞台装置はほとんどなく、上手(かみて)と下手(しもて)があるのみ。最近では木の作り物などを舞台に置くことはありますがかつてはほとんどありませんでした。

アクロバットな動きも京劇の特徴といえます。舞台に刺激が足りないとお客さんが帰ってしまったり、退屈で寝てしまったりするので、お客さんがハッとするような発声やアクロバットな動きをつけるんです。

――中国ではお茶をしながら観劇をすることが多いんでしょうか?

今は観劇をするだけの劇場が多く、お茶や軽食をいただきながら見るところは少なくなりました。もともと飲食をしながら見るのは「劇園(シーユエン)」と呼ばれるもので、今でもこの形式をとっているところはありますが、復刻版として観光客向けに提供しているところが多いですね。

――京劇役者は世襲制ですか?それとも誰でも目指すことができるんですか?

昔は歌舞伎のように世襲が主でした。そもそも家業としての京劇ですから、門外不出という意味あいもあって台本が存在せず、口承だったんです。今では家が京劇役者の家系でなくとも、役者を目指すことはできますし、男性に限らず女性の役者もいます。

京劇役者になるには、早い人だと5歳くらいから基礎を学んで、その後に養成学校や予備校のようなところで訓練します。高校以降は専門学校でさらに技術を磨く、または大学の京劇専攻に進学したのち、劇団に所属します。今は昔よりも本気で取り組んでいる子がずっと多くなったと思います。

孫悟空以外の見どころ満載な演目も知ってほしい

――初心者にも見やすい演目を教えていただけますか?

やはり『孫悟空』は人気がありますし、初めての方にもわかりやすいと思います。私自身が外国で公演を行う際には決まって『孫悟空』をやっていました。ただし、「京劇=孫悟空」と思われてしまうと困るので他にも紹介させてください。


『二将軍』 / 日本京劇振興協会より提供

まず、『三国志』の馬超が出てくる『二将軍』という作品ですね。馬超は西涼(※編集部注:現在の甘粛省あたり)の猛将で、蜀の将軍・張飛と一騎打ちをします。二枚目の馬超と隈取をした張飛が戦う立ち回りもかっこいいですし、鎧の衣装も目を引きます。見どころが満載なので、初めての方でも楽しめる作品だと思います。


『覇王別姫』(写真:井田裕明) / 日本京劇振興協会より提供

このほか、映画として話題となった『覇王別姫』も面白いです。これは、王になった項羽が天下統一のあと一歩のところで劉邦に敗れたのち、奥さんである虞美人と別れてしまう恋愛要素の入った劇です。また、この『覇王別姫』で特筆すべきは梅蘭芳という役者。彼は男性なんですが、女形の名優で、「梅派」という女形の流派の創始者でもあります。彼の代表作が『覇王別姫』で、彼の劇がベースとなり『覇王別姫』は演じ続けられています。

――最後に京劇に興味を持っている方へメッセージがあればお願いします。

私は中国から来た京劇役者ですが、日本で演目をする際にはわかりやすい演目を作っています。今年の前半は新型コロナウイルスの影響でいろいろなイベントが中止になってしまいましたが、8月(※)には自主公演『林冲(Lin Chong)~豹子頭の悲運~』を予定しています。今はワクワクしながら稽古をしています。実際に観劇すると雰囲気や呼吸なども見えて面白いと思いますので、ぜひお時間ある方はお越しください!

※2020年8月29日(土)で調整中とのことです。詳しくは日本京劇振興協会・新潮劇院の公式サイトやツイッター等でご確認ください。


張春祥(ちょうしゅんしょう)さん
在日京劇団「新潮劇院」主宰。一般財団法人日本京劇振興協会 代表理事。
1960年北京生まれ。祖父の代から京劇を家業とする京劇一家に生まれ、自身も北京京劇院に13年間所属。武生(ウーション・立ち回る二枚目役)を専門とし、数多の公演で主演を務めた。1989年来日。中島みゆき「夜会」、蜷川幸雄演出「さらばわが愛~覇王別姫」など、舞台、ミュージカル、TV、映画、振り付け、立ち回り指導、ワークショップなどで活躍。
1996年、日本での京劇普及のために在日京劇団「新潮劇院」を設立。日中文化交流の懸け橋を担う。

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