2020/09/15 ビジネス

決済成功率を上げる【アリペイ創業物語第22回】

いまや世界で5億人が利用するモバイル決済システム「アリペイ」。運営するのは、世界最大の非上場企業「アント・フィナンシャル」。本連載は、中国キャッシュレス社会を築きあげたフィンテック企業の公的伝記『アント・フィナンシャルの成功法則 アリペイを生み出した巨大ユニコーン企業』(発行:中信出版日本)を73回に分けてお届けします。
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 ラクダ大会で彭蕾(ポンレイ)は、決済成功率を上げることを会社のKPI(重要業績評価指標)にすると言った。アリペイはすぐに優秀な戦力をここに集中させ、この厳しい戦いに備えた。なぜ、決済成功率の向上が会社全体の問題になるのか。それに関しては当時のアリペイの決済モデルから話さなければならない。
 
 アリペイの決済モデルは担保決済モデルである。買い手はまず代金を銀行のアリペイの法人口座に入れ、アリペイは買い手が商品を受け取ったことを確認してから、代金を売り手に送金する。アリペイ創設当時、オンライン決済をするユーザーの比率はまだ低く、大部分のユーザーは郵便局の送金か振替電信為替を使い、清算担当者が毎日会社の帳簿を見て1件ごとに手作業で記録していた。
 
 その後、アリペイは中国の十数行の主要な商業銀行とつながりをもつようになっていったので、ユーザーがタオバオで買い物をした際、ネットバンキングでアリペイ口座に振り替えて決済を完成させられるようになった。これが「ゲートウェイ方式」である。
 
 多くのタオバオのベテランユーザーには、以下のような印象が残っている。アリペイを使って買い物の清算を行う際に、まず銀行カードの種類(クレジットカードかデビットカードか)とカード発行銀行を選び、画面上のボタンをクリックすると、サイトはカード発行銀行のネットバンキングのページに飛ぶ。ユーザーは、そこでさまざまな銀行の要求に従って操作を進める。各銀行の決済過程は千差万別だ。ある銀行はカード番号とパスワードを入力しなければならない。また、ある銀行はUSBセキュリティキーを差し込まねばならない。また、ある銀行はワンタイムパスワードを入力しなければならない……。決済を完了させるために、ユーザーは何度もページをジャンプしなければならなかった。
 
 当時、多くのユーザーは何をどうすればいいかわかっていなかったので、アリペイのカスタマーサービスは、毎日この種の多くの問題に答えなければならなかった。ユーザーの質問に答えるために、カスタマーサービスのスタッフはすべての銀行のネットバンキングのプロセス表を持っておき、問題が起こったときにそれを参考にして答えていたが、それでも決済の成功率を上げるのは難しかった。
 
 この状況は、ネットバンキングの決済システムと関係があった。ネットバンキングの決済は、本質的に顧客側ですべての操作を完成させる。ページをジャンプすることで、決済の結果がアリペイに通知される。この過程で、どこか一つでも問題が起これば、情報の伝達が阻害され、「注文失敗」という現象が起きる。「注文失敗」は、顧客の金が引き落とされているのに、アリペイが決済成功という情報を受け取れないことを指す。
 
 当時、アリペイが統計をとったところ、ページを1回ジャンプするごとに、顧客の決済における流出率は5%増加し、ページの移動が頻繁になると、大きく決済成功率が下がる。ユーザーがさまざまなブラウザを使っていることも決済成功率に影響を与えた。現在でも、大部分のネットバンクはインターネット・エクスプローラーとウインドウズでしか使用できないため、他のブラウザのユーザーはつねに決済失敗となる。そのため、一般のユーザーにとって、ネットバンク決済のハードルはかなり高い。機械音痴を自認しているジャック・マーは、USBセキュリティキーを差し込むようなことは、もとより自分にはできるはずがないと考えている。
 
 この問題を解決するために、銀行にソリューションを提供するなど、アリペイはさまざまな方法を考えた。彼らは、まず銀行のネットバンキングの決済成功率を上げさせようと考えたが、多くの銀行があまり協力的でなく効果も低かった。たとえば、アリペイは、かつて大変力を入れて農業銀行のネットバンキングの決済成功率を50%から数%上げたが、それは80〜90%というタオバオの決済成功率の要求にほど遠かった。もしそれを継続し、さらに多くのコストをかけても問題は解決しきれなかっただろう。

次回は、「第23回:「アリペイカートン」の登場


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アント・フィナンシャルの成功法則 アリペイを生み出した巨大ユニコーン企業
著者:由曦
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