2020/09/16 ビジネス

「アリペイカートン」の登場【アリペイ創業物語第23回】

いまや世界で5億人が利用するモバイル決済システム「アリペイ」。運営するのは、世界最大の非上場企業「アント・フィナンシャル」。本連載は、中国キャッシュレス社会を築きあげたフィンテック企業の公的伝記『アント・フィナンシャルの成功法則 アリペイを生み出した巨大ユニコーン企業』(発行:中信出版日本)を73回に分けてお届けします。
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 アリペイは、それまで歩んできた道が袋小路に入ってしまったため、ほかの方法を探すしかなくなった。
 
 このとき、「カードサービス」業務が視野に入ってきた。2006年頃、アリペイでは顧客が求めているサービスを把握するための調査を行った。一部の顧客は、アリペイにカードをつくるよう提案した。カードにチャージしておけば、各種のネットバンクを開通させる手間が省ける。その結果、アリペイには銀行と共同でカードをつくるというアイデアが生まれた。この業務はのちに「アリペイカートン」(カード決済サービス)と呼ばれるようになる。

「アリペイカートン」は、三方面の契約という方式を採用していた。銀行とカード所有者、アリペイとカード所有者、銀行とアリペイという三方面で、それぞれ二者間で契約する。契約では、決済時にカード所有者の資金の損失が発生したら、それを銀行とアリペイが共同で負担するとしている。しかし、銀行はリスクを極度に嫌うため、話がリスクという段階に及ぶと、話し合いの継続が難しくなった。提携を希望したのは中国建設銀行だけだった。

 2006年10月、アリペイは、まず中国建設銀行と「アリペイドラゴンカード」を誕生させた。このカードは銀行口座とアリペイ口座の紐づけを実現した。ユーザーは中国建設銀行のカウンターで「アリペイドラゴンカード」の手続きをするとき、自分のアリペイ口座の記入欄を埋めさえすれば、銀行カードと紐づけが完成し、決済の際にネットバンクにサイトを移動しなくてもいい。当初は、この業務は全国の五つの省と市で試行され、第2弾の試行地の省や市は12に増え、少しずつ全国に広まっていった。
 
 その後続いて起こったことは、現在でもアリペイ社員の記憶に深く刻まれている。
 
 安徽(あんき)省に住むあるタオバオユーザーが買い物をしたとき、ネット銀行での支払いを7回試みたがすべて失敗に終わった。最後に彼は2時間をかけて、汽車で馬鞍山から南京の中国建設銀行まで行き、アリペイドラゴンカードの手続きをした。この顧客の行動は、アリペイ社員を感動させたが、一方で忸怩(じくじ)たる思いにさせた。感動したのは、そのユーザーが7回も支払いに失敗したあと、支払いを完遂するために2時間も列車に乗ってくれたことだった。そして忸怩たる思いになったのは、アリペイの支払い方法にまだレベルアップの余地が大きいことを意味していたからだ。

 アリペイカートンは、こうした一部の人のニーズを満足させたが、問題がないとは決して言えなかった。
 
 まず、タオバオで支払いをするために新しいカードをつくるユーザーは少数にすぎず、大部分の顧客はその手間を嫌った。銀行の立場に立てば、中国建設銀行が当時この業務に同意したのは、新しいユーザーを増やすためであったため、このサービスは新しいカードでしか利用できなかった。そのため、ユーザーがこのサービスを使おうとすれば、新しいカードをつくらなければならず、まず銀行と契約し、それからアリペイと紐づけ契約を結ばなくてはならなかった。手続きを終えて使ってみると便利だったが、そこにいたるまでの手続きが煩わしかったので、ユーザー数は増加しなかった。その後3年間で増えたのはわずか2000万〜3000万人だった。
 
 アリペイカートン業務は決済成功率を85%以上にまで上昇させたが、そのことによって、カードの残高不足という決済失敗の新たな原因が判明した。このカードは、給料カードのような収入用ではなかったため、ユーザーはチャージするのを忘れ、「カード残高不足」が決済失敗の主要な原因となった。当時、中国建設銀行がアリペイに示したフィードバックデータによると、アリペイドラゴンカードのアクティブ度は高いが、カードの平均残高は500元未満だった。そのため、決済成功率には依然として目覚ましい上昇が見られなかった。
 
 この模索の過程では大変苦労したが、収穫は大きかった。たとえば、アリペイの社員は、クレジットカードのうちの「カートン」(銀行との提携カード)の決済成功率が高いことに気づいた。2010年1月、アリペイと中国銀行は連名のクレジットカードをつくり「中銀タオバオカード」と名づけた。
 
 このカードは本質的にはカートン業務用だったが、銀行のキャッシュカードと連携しているために残高不足問題は存在せず、決済成功率はずっと高く、90%以上になった。このことはアリペイグループに、カートンの口座紐づけモデルは有効にユーザーの決済成功率を上げるが、残高不足による決済失敗を回避するためのいいやり方を探す必要があることを気づかせた。
 
 この問題の答えを探すために、会社中で問題の整理を行った。
 
 このとき、ある意外な発見が社員の目に入ってきた。
 
 当時、ほぼすべての銀行が類似のカートン業務をしており、そのプロセスは銀行カードユーザーがまずネット銀行を通じて紐づけし、それから代理引落としによる決済過程を経るというものだった。このシステムを中国工商銀行では「繳費站」、中国銀行では「支払通」、中国建設銀行では「易付通」と呼んでいたが、本質的にはすべて「1回の契約で何度も引落としを行う」という内容だった。当時この種のサービスの使用は、学費の引落とし、光熱費などの納付が主だった。このときアリペイ社員は気づいた。
 
 銀行カードが光熱費などの代理引落としの機能をもてるのだから、理論上は銀行カードにアリペイの代金代理引落とし機能を加えることもできる。そうすれば、ユーザーは契約が完了し、アリペイ口座を紐づけたあとアリペイを通じて引落としを依頼できるようになる。そのとき、皆の目の前が明るく開けた。
 
 次に続く仕事は銀行との交渉だった。

次回は、「第24回:銀行との交渉


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アント・フィナンシャルの成功法則 アリペイを生み出した巨大ユニコーン企業
著者:由曦
中国で10万部のベストセラー!中国で生まれ日本や世界で5億人が利用するモバイル決済システム「アリペイ」。運営するのは、世界最大の非上場企業「アント・フィナンシャル」である。本書は、同社のサービス誕生からイノベーションを繰り返して成長した過程を、企業の人・できごとにスポットを当てながら克明に描く創業物語。世界の金融業界から注目を集めるフィンテック(決済技術)最先端企業を解き明かす。

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