2020/11/25 ビジネス

木は1本では林にならない【アリペイ創業物語 最終回】

いまや世界で5億人が利用するモバイル決済システム「アリペイ」。運営するのは、世界最大の非上場企業「アント・フィナンシャル」。本連載は、中国キャッシュレス社会を築きあげたフィンテック企業の公的伝記『アント・フィナンシャルの成功法則 アリペイを生み出した巨大ユニコーン企業』(発行:中信出版日本)から、73回に分けてお届けします。
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 未来のアント・フィナンシャルは、創業時の初心をもち続け、科学技術で社会の問題を解決し、科学技術でユーザーの不満を解決する。

 2018年9月20日、杭州の雲棲大会ATEC(Ant Technology exploration Conference)メインフォーラム会場で、特別な技術ショーが披露された。アント・フィナンシャルの副CTOの胡喜(フー・シー)が、アリペイの半分近くのサーバーの光ケーブルを切断するシミュレーションを行った。その結果、たった26秒でアリペイは完全に復旧した。
 
 アント・フィナンシャル内部では、同様の事故・災害に対する演習がつねに行われている。しかし、公開の場面で対外的に披露するのは容易ではない。「ほとんどの場合、すべての人が失敗する」と胡喜は言った。観客が見たのは4本の線が切られるところだったが、データと取引はそれぞれの機関室に分散されていたため、それぞれのスキームに影響を与えた。基盤を調整し、量の多いデータベースシステムを一度に連携して作動させるのは、非常に難しい。
 
 現在、アント・フィナンシャルの機関室のスキームは「3カ所5センター」になっており、3都市に五つの機関室を配置している。そのうちの一つあるいは二つの機関室が故障した場合、アリペイの基盤技術システムが故障した都市のアクセスをすべて正常な機関室に切り替え、データを一致させ消失ゼロにすることができる。この技術システムはアント・フィナンシャルのシステムの持続的使用可能性を99.9999%に高めることができる。すなわち、金融レベルの標準で測った場合、トップクラスであるということだ。

 「今回は演習です。しかし実際の環境では、アリペイの二つの都市の二つの機関室で同時に問題が起きても、この二つの機関室で処理されるべきアリペイ口座の正常な回復速度は分レベルです」と胡喜は言った。
 
 胡喜は2007年にアリペイに入った。37歳の彼は、アリババグループの最年少のパートナーの一人である。技術ラインにおいて、彼はアント・フィナンシャルでずっと困難な探索をし、問題解決のために努力を続けてきた。初期に、胡喜と同僚たちはおもに二つの課題に直面していた。一つはシステムの容量を無限に増やせるようにすること。二つ目は、システムを持続的に使用できるようにすることだ。もし分散型スキームが、一つ目の問題を解決するならば、「異地多活」(違う土地で多数のシステムが動いている状態)の技術の成熟により、二つ目の問題は、もはや問題にならないということを意味している。

 「完全に成し遂げる」という究極的な技術の追求により、胡喜と同僚はアント・フィナンシャルの技術を世界中のフィンテック領域の最高点まで高めた。今日、胡喜と同僚はさらに大きな夢をもっている。それは実際の業務を通して検証された技術の商品化を成し遂げて、パートナーに開放することである。
 
 ATECは、アント・フィナンシャルの1年に一度の最高レベルの技術サミットである。注意深くアント・フィナンシャルに注目してきた人なら、ここからこの評価額世界1位のフィンテック企業の動向を読み取ることができる。2017年、ATECではアント・フィナンシャルのCTOの程立(チェンリー)が、アント・フィナンシャルの未来に向けての技術戦略を披露した。それは「BASIC」戦略だ。BASICとは、Blockchain、AI、Security、IoT、Computingを指している。1年後の会議で、アント・フィナンシャルの副CTOの胡喜は、アント・フィナンシャルの科学技術の輸出では、さらにもう一歩進み、業界に完璧なデジタル金融ソリューションを提供したいと宣言した。
 
 多くのオープンな技術のなかで、ブロックチェーン(分散型ネットワーク)はベーシック戦略中の重要な部分である。ATECの現場で、アント・フィナンシャルの副総裁の蒋国飛(ジアン・グオフェイ)はアント・フィナンシャルのブロックチェーンのさらなる進展を宣言し、ブロックチェーンBaaSサービスプラットフォームを発表した。アント・フィナンシャルのブロックチェーンのパートナー計画を起動させ、ブロックチェーンに中小の起業家が、基盤技術上で各種の使用シーンの開放とイノベーションを行えるようにさせた。
 
 派手に宣伝している他のブロックチェーンとは違い、アント・フィナンシャルのブロックチェーンは、パートナーと協力して使用シーンを開発することに重きを置いている。過去2カ月で、アント・フィナンシャルのブロックチェーンは、半月に一度の頻度で新しいシーンを生み出したと、蒋国飛は言った。香港とフィリピンで、世界中で最初のブロックチェーン国際送金を行った。浙江で全国初のブロックチェーン医療証明書を出した。また上海の華山病院と共同で全国初のブロックチェーン電子処方箋を出した。海南省政府とともに全国で最初のブロックチェーンの公定積立金の証明書を発行した。
 
 社会の実際の問題を解決することは、一貫してアント・フィナンシャルの技術発展に対する基本的姿勢であり、アリペイの最初の担保取引から、のちの快捷支付、余額宝と借唄、花唄に至るまで、アント・フィナンシャルの業務のイノベーションに伴い、この企業の技術は日々完成されてきた。未来に向けて、アント・フィナンシャルの「温もりのある科学技術」のもつ価値の高さを表現していく。ドラッカーが言う通り、企業の目的は外部に存在し、社会の責任のなかに存在する。同じく技術も責任と温もりが必要である。
 
 アント・フィナンシャルは、技術をオープンにして外部にも利用できるようにするのと同時に、業務と能力の開放を推進している。成熟するごとにオープンにしていくという原則を守り続け、2018年から次第にその重要な業務機能を開放し始めた。借唄、花唄、余額宝などのアント・フィナンシャルの中核的業務は、すべて開放のリストに入っている。もっとも金を稼ぐ中核的業務を開放すると同時に、アント・フィナンシャルはミニアプリなどのサービスを通して自らの能力をすべて開放しようと計画している。
 
 インターネットの巨頭であるアント・フィナンシャルは、よいと思った領域に次々と投資を増やしている。エリック・ジンによると、アリペイのミニアプリには特徴がある。それは金銭に近いこと、信用に近いこと、サービスに近いことである。ミニアプリのエコシステムを保護するために、アント・フィナンシャルは最近の3年間で10億元を準備した。また戦略的に見て、ミニアプリを足がかりとした機能の開放も将来的にはありうる。

 「木は1本では林にならない。オープンにしなければ、デジタル中国の建設をよりスムーズに進めることができない。デジタル生活全体がより素晴らしくなるよう推進するのがわれわれの理念である」とエリック・ジンは語る。
 
 アント・フィナンシャルの努力は、すべて一つの目標に向かっている。それは、未来に向けたデジタル金融エコシステムを他の人とともに構築することであり、科学技術を用いて世界にさらに多くの平等な機会をもたらすことである。



アント・フィナンシャルの成功法則
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アント・フィナンシャルの成功法則 アリペイを生み出した巨大ユニコーン企業
著者:由曦
中国で10万部のベストセラー!中国で生まれ日本や世界で5億人が利用するモバイル決済システム「アリペイ」。運営するのは、世界最大の非上場企業「アント・フィナンシャル」である。本書は、同社のサービス誕生からイノベーションを繰り返して成長した過程を、企業の人・できごとにスポットを当てながら克明に描く創業物語。世界の金融業界から注目を集めるフィンテック(決済技術)最先端企業を解き明かす。

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