2020/11/24 ビジネス

国際法と「国家の品格」

写真:PIXTA

中国の著者によって書かれた日本史の本——とても奇妙な作品のように思えますが、実は意外と興味深いものです。我々が知っている日本の歴史を通して、当時中国との比較、現代中国への暗喩、日本に対する正直な気持ちなどが随所に散りばめられています。この記事では、12月5日販売開始の新刊『明治維新の教え —中国はなぜ近代日本に学ぶのか』(中信出版日本)を一部抜粋して面白くなる「読み方」を紹介します。



国際ルールを遵守できる国とは?


国際法、条約、経済協定、国際機関や会議での合意、など外交を行う上でのルールは数多い。それも貿易などの取り決めは外国との通商についての規則である一方で、「人権」などに関する取り決めは国内向けのガイドラインとなります。現代の国際社会ではこれらを遵守していることが、諸外国からの信用度、さらには「どの程度尊敬されているか」にも大きく影響します。

幕末、瀬戸内海で「日本史上初」の海難事故が起きました。
1867年5月26日夜、坂本龍馬率いる海援隊が運航する商船「いろは丸」が、徳川御三家・紀州藩所有の汽船「明光丸」を避けられずに衝突。船体規模で劣る「いろは丸」が沈没してしまいました。

当時の様々な国際統一ルールを定めた『万国公法』に照らし合わせると、夜間航行にも関わらず航路を監視する宿直員を配置せず、衝突回避の義務を怠った「明光丸」側の責任は明白でした。

しかし、この時代はまだ封建体制下。
一民間組織の海援隊、または彼らを支援する土佐藩が、8代将軍・吉宗を輩出したほどの名門紀州藩に対して強硬姿勢に出ることは考えられないこと。

紀州藩は幕府による裁定を求めたが、それでは海援隊・土佐藩にとって不利なのは明らかです。
それでも幕府には逆らえない土佐藩が折れようとしたところ、坂本龍馬が当時日本に持ち込まれたばかりの『万国公法』を論拠に紀州藩に非があることを認めさせたエピソードが『明治維新の教え』では象徴的に描かれています。

<解決策を見いだせず、追い詰められた土佐藩は、折れて紀州藩の要求を呑もうとする。だが、坂本龍馬は海援隊隊長として次のように進言する。
「日本はこれから先進的な海運国となり、今回のような海上での事故もより頻繁に起こるだろう。最初の案件は、必ず今後の事故処理の基準となる。ここでひるんでは、強大藩による弱小藩いじめを助長することになる」。
龍馬の我慢強い説得により、土佐藩と紀州藩は交渉を開始する。両者激しい口論となり、ともに一歩も引かず膠着状態に陥る。龍馬は「万国公法」を持ち出し、この世界が認める準則に則った形での処理を提案、「世界に日本を認めさせたければ、この法を守ることから始めよ」とした>

結果、紀州藩が非を認め賠償金の支払いに合意。日本で初めての国際法が適用された海難事故処理となりました。

一方、中国(清)では日本に先駆け、国の支援下で『万国公法』を中国語に翻訳、1866年に刊行されていた。
しかし、このアメリカ人が記した法律書を、伝統を重んじる中国の知識人層は認めなかったどころか、序文を書いた清朝官僚が非難され、日本とは天地ほどの違いがある扱い方だったようです。

<譚嗣同(清末の思想家)が批判したように、「万国公法とは西洋人の仁義を尽くした書」だが、中国人は謙虚にそれに学ばないのだから「西洋人が、中国人は謙虚さがなく、自己反省せず、自身の至らなさに気づかず、学ばず、他に及ばないことを恥じないというのを責めることはできない」。しかし、「万国公法」が日本で受ける扱いはまったく違っていた。中国語版「万国公法」はすぐに日本に伝わり、重視された。一部の日本人学者が、中国語版を手本に日本語に翻訳・出版すると、その反響は大きかった。新しい知識を受け入れるのが得意だった龍馬は、この「万国公法」を自身の論拠にし、紀州藩を困惑させた>

坂本龍馬の「法治国家・日本」の先駆けとなった働きについて『明治維新の教え』の著者・馬国川氏は以下のような賞賛の言葉で中国の読者に紹介しています。

<世間を騒がせた海難事故が、ついに合理的な方法で解決された。あの混沌の時代に、率先して西洋人の方法で紛争を処理したことは、極めて先見的な行為だった。その意味で、坂本龍馬は近代日本の航海事業においても幸先良いスタートを切ったのである>


現代では多くの国で国際的なルールが守られる世界になっていますが、一部の国では、国際摩擦や自国第一主義などで一方的に無視したり、勝手な解釈がされるケースも見られます。さらには、人類にとって普遍的な価値観であったとしても、一国家の権力者にとって歪められてしまうことさえあります。
『明治維新の教え』は、そのような利己的な国はどんなに強大な国であっても世界から認められるのか?ということを問うているように思えてなりません。



明治維新カバー
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